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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパン年間チャート発表を踏まえ、2019年のチャートトピックス10項目を挙げる

2019年度のビルボードジャパン年間チャートが発表されました。

ソングスチャートは2年連続で米津玄師「Lemon」が制覇し、史上初の2連覇を達成。弊ブログではそのソングスチャート(→こちら)を中心に、2019年の音楽業界のトピックスを10個挙げてみます。なお、昨年については下記に。

 

それでは、今年度の10項目を取り上げていきます。

目次

 

① 米津玄師「Lemon」、史上初の2年連続首位獲得

2018年1月クールの連続ドラマ『アンナチュラル』(TBS)主題歌、米津玄師「Lemon」が年間チャートを制しました。秋には携帯電話会社のCMソングに起用され、そして昨年大晦日の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)で初めてパフォーマンスしたこと(および『アンナチュラル』の再放送)が牽引し、年末年始のチャートで5週連続「Lemon」が首位を獲得しました。

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興味深いのは、「Lemon」についてはシングルCDセールスが落ち込んでいないこと。上記CHART insightの黄色の折れ線がシングルCDセールス指標に該当します。「Lemon」を収録したアルバムが出ておらずシングルCDでしか手に入らないこともありますが、社会現象的な特大ヒットに至ると、アルバムに入るようになったとしてもシングルCDを購入する層が一定数存在するという消費行動が影響しているでしょう。また、アイドルやK-Pop等特定のジャンルが強いシングルCDセールスにあって米津玄師さんが強いのも特徴で、年間アーティストランキングを指標毎にみると(→こちら)、米津玄師さんはアルバムを含むCDセールスが8位に入っています。その年間アーティストランキングにて総合で2位を記録した米津玄師さんは、同ランキングでトップ20入りした歌手の中でKing & Prince(16位)共々ストリーミング指標未ランクイン。あいみょんさんに1位を譲った形となったのは上記記事において『最終的にストリーミングの有無が明暗を分けた』と指摘されていることもあり、サブスクリプションサービスの解禁が2020年度以降も勢いをキープする鍵と言えそうです。

 

 

② 米津玄師関連作品も大ヒット

①そして②は昨年の流れをそのまま踏襲していますが、米津玄師さん自身の「馬と鹿」が5位、「Flamingo」が12位を記録。「馬と鹿」についてはシングルCD同日リリースとなった嵐「BRAVE」を抑えて週間チャートを制しました。

また提供曲として、菅田将暉まちがいさがし」が6位、Foorin「パプリカ」が7位に入り、年間ソングスチャート20位以内に実に5曲がランクイン。米津玄師さん自身の楽曲はソングスチャート100位以内に9曲(DAOKO×米津玄師名義を含む)を送り込む等、「Lemon」の大ブレイクを機にさらなる注目が集まりました。大ブレイクに伴い『BOOTLEG』がアルバムチャート年間9位、『YANKEE』が同42位にランクイン。この2作は2年間、週間チャート常時100位以内に在籍しています。

他方チャートにおいては勿体無い動きも。Foorin「パプリカ」においては以前指摘したように、ISRCがきちんと付番され動画再生指標がカウントされていたならばもっと上位に行けただろうに、とその機会損失を強く残念に思います。下記CHART insightで赤の折れ線で表示されているのが動画再生指標ですが、ダンス動画が1億回を超える再生回数を達成しているゆえ、この機会損失がなければ更に上位に行けたはずです。

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今後のチャートアクション、特に米津玄師さん本人の楽曲においては『NHK紅白歌合戦』に出演するか否かで大きく異なるでしょう。最新12月9日付チャートにおいて「馬と鹿」は10位までダウンしており、勢いは徐々に低下しています。出演に至らないならば、来たるべきアルバムリリースに合わせてもしくは先駆けてサブスクリプションサービスを解禁させるか、もしくはフィジカルに売上を集中させてセールスが落ち着いたころに解禁に至るか…とにかく解禁することが必須と考えます。

 

 

Official髭男dismが大ブレイク

今年最大のブレイクアーティストといえば彼らに異論はないでしょう。「Pretender」は2019年度の対象期間にリリースされた作品では最上位となる3位を獲得。また「宿命」は10位、昨年のシングル「ノーダウト」は17位と、ソングスチャートトップ20に3曲を送り込みました。

「Pretender」は一度として週間ポイント数が1万を超えなかったものの、今年度は通算2週首位を獲得したほか、週間7000ポイントを超えれば大ヒットという状況(詳細はOfficial髭男「Pretender」、3週以上7000ポイント超えは大ヒットの証…6月10日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック(6月6日付)参照)において26週もの間7000ポイント超えを達成。彼らの強みは接触指標群の大ヒットであり、言い換えればシングルCDセールス指標がそこまで強くなくとも上位進出出来ることになります。下記CHART insightでは黄色の折れ線グラフがシングルCDセールス、青がサブスクリプションサービスの再生回数を基とするストリーミング、赤が動画再生を指します。

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④ 髭男、King Gnu菅田将暉…シングルCDセールスに頼らない楽曲が上位に進出

Official髭男dismと同様ブレイクを果たしたKing Gnuは「白日」が4位を獲得し、この2組は今年の『NHK紅白歌合戦』へ出場が決定していますが、その「白日」や先述した菅田将暉まちがいさがし」、またOfficial髭男dism「イエスタデイ」(年間32位)はいずれも未シングルCD化楽曲。Official髭男dismについては④で述べた通り「Pretender」や「宿命」がシングルCDセールスに長けているわけではないため(ただしルックアップは高く、CDレンタルにて接触されているのが特徴)、シングルCDセールスに特化しない作品が大ヒットを遂げたことになります。この項目で取り上げた5曲は全て映像作品のタイアップという共通点がありますが、シングルCDセールスよりもダウンロード、そしてストリーミングや動画再生の接触指標群が共に高く推移したことが特徴と言えるでしょう。詳細は次項で。

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⑤ 短期的には逆でも長期的には【CD所有<ダウンロード】【所有<接触】が有利に

弊ブログでは今年首位を獲得した楽曲の翌週の動向を一覧にまとめましたが、首位獲得曲の大半は初週のシングルCDセールスの強さを武器に頂点を極めながらも、翌週は大きくダウンしているのが特徴と言えます。

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翌週のポイント前週比をみると3割を超えた作品はBTS「Lights」以外全て首位獲得週のシングルCDセールスで首位に至っておらず、つまりは複合指標できちんと偏りなくポイントを稼いでいることが解ります。そして翌週ポイント3割超えを果たした作品が年間ソングスチャートでいずれも好調。年間ソングスチャートを制した「Lemon」を筆頭に、あいみょんマリーゴールド」2位、「Pretender」3位、「馬と鹿」5位、BTS「Lights」18位、米津玄師「海の幽霊」30位と、6作品中4作品がトップ20入りを果たしています。BTSはCDセールスとストリーミングに長け、米津玄師さんはシングルCDセールスやダウンロードが強い一方ストリーミングは未解禁、あいみょんさんとOfficial髭男dismはストリーミングが強い傾向にありますが、アルバムも含めた年間アーティストランキングを指標毎にみると(→こちら)、上位20組でCDセールス10位以内に入ったのが6組だった一方、ダウンロードは14位まで、ストリーミングは15位までに10組全てが登場し、CDよりダウンロードやストリーミングが強い歌手が上位に来る傾向がみえてきます。同じく年間アーティストランキング上位20組には、CDをパソコン等にインポートした際にインターネットデータベースにアクセスした回数を示すルックアップで10位以内に入った歌手が10組すべて、動画再生が9組登場しており、【CD所有<ダウンロード】【所有<接触】の傾向が強いと捉えることが出来るでしょう。

 

 

⑥ アイドル楽曲はトップ20に4曲のみ、またトップ10入りはゼロ

⑤の表を用いるならば、シングルCDセールス加算2週目におけるポイント前週比が3割未満だった41曲中、年間ソングスチャートトップ20入りを果たしたのは欅坂46「黒い羊」の14位を筆頭に乃木坂46「Sing Out!」(16位)、同「夜明けまで強がらなくてもいい」(19位)そして日向坂46「キュン」(20位)の4曲のみ。シングルCDセールスに係数が用いられる形にチャートポリシーが変更された一昨年は20位以内に8曲(トップ10に4曲)、昨年は6曲(同4曲)だったことを踏まえれば、今年のアイドル曲の強くなさが目立ちます。リリース数の多くなさもあるかもしれませんが、坂道グループが健闘するもののAKBグループおよびジャニーズ事務所所属歌手がトップ20にゼロというのは寂しい結果となりました。

これを象徴するのが、嵐「BRAVE」が同日CDリリースの米津玄師「馬と鹿」に総合チャートで敗れたこと。シングルCDセールスでは「BRAVE」が上回ったもののルックアップでも敗れており、シングルCDセールス以外の指標を獲得することの大切さ、ならびにルックアップから推測されるユニークユーザー数の重要性を実感出来た点においても、2019年の音楽動向を知る上で重要な事件だったことは間違いないでしょう。

尤も、今年嵐がデジタル解禁したことも大きな出来事であり、年間36位の「BRAVE」にはデジタル解禁後に復調した分、5000を超えるポイントが上乗せされています。しかし嵐の楽曲解禁がシングル曲にとどまり且つミュージックビデオの解禁を進めていないこと、ジャニーズ事務所所属の他の歌手がデジタル解禁の動きをみせていないことを踏まえれば、デジタル解禁は喜ばしいことだとしてもまだまだ疑問が残ります。指標毎の年間アーティストランキング(→こちら)からは、ストリーミングや動画再生という接触指標群が未カウントの歌手はほぼランクインしていないことが解るゆえ、今後良好なチャートアクションを築くためには(そしてそれがライト層を拡大しコアなファン化につながるだろうことを踏まえれば)、デジタル解禁は必須と言っていいでしょう。他方、年間ソングスチャートトップ20入りした坂道グループはいずれもストリーミングと動画再生の接触指標群が強くないながらもそれぞれ100位以内に登場しています。

今年は星野源さんやBUMP OF CHICKEN、LiSAさん等多くの歌手がサブスクリプションサービスで解禁しましたが、喜ばしい一方で遅きに失した感はなかったかとも考えてしまいますし、サブスクリプションサービスを利用する方を中心に未だ解禁していない歌手に対して不信感すら生まれてやいないかと懸念すら抱きます。年間ソングスチャート15位に「HAPPY BIRTHDAY」を送り込んだback numberは、ベストアルバム『アンコール』までの旧譜をサブスクリプションサービスで解禁した効果で年間アーティストランキング6位に入りストリーミング指標も4位を獲得していますが、「HAPPY BIRTHDAY」を含む近年の作品はサブスクリプションサービス未解禁のままであり、仮に解禁していたならばトップ10入りも十分あり得たものと考えると実に勿体無いと思うのです。

 

 

⑦ ”紅白”効果は絶大

米津玄師「Lemon」の2連覇、昨年度は年間48位だったあいみょんマリーゴールド」の2位躍進、昨夏リリースで昨年度は年間ソングスチャート未ランクインのFoorin「パプリカ」の7位獲得等、昨年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)に出演した歌手の作品が年をまたいで大ヒットする、もしくはブレイクを果たしたことになります。代表作「つつみ込むように…」と共に披露したMISIA「アイノカタチ feat. HIDE (GReeeeN)」も昨年度は27位、今年は31位となっており、”紅白”は年末年始のロングヒットに至らせる、そして出演以降のブレイクの契機となる大きな存在であることは間違いないでしょう。それを踏まえるにあいみょんさんの今年の不出場は、紅白がビルボードジャパンソングスチャートを参考にしているだろうことを踏まえれば、紅白側が外したのかあいみょんさん側が断ったかは判りかねるものの、腑に落ちない自分がいます。

今後、2020年度のソングスチャートにおいて”紅白”関連で主役になるかもしれない楽曲のひとつはLiSA「紅蓮華」かもしれません。テレビアニメ『鬼滅の刃』オープニングテーマとして大ヒットし、サブスクリプションサービス解禁を経て安定したヒットとなりました。アニメや原作漫画もブレイクし来年は映画も公開されることからさらなるヒットも期待出来ます。惜しむらくはショートバージョンに因る動画再生指標の強くなさにあり、その問題が解決出来れば「紅蓮華」の大ブレイクは必至ではないかとみています。

 

 

K-Popは勢力後退もむしろ浸透していることが証明

年間ソングスチャートにおけるK-Popは上位50位以内に6曲、トップ20には1曲という結果であり、昨年の9曲/4曲だったことを踏まえれば勢いは落ちていると捉える向きもあるでしょう。トップ10入りは昨年が1曲に対し今年はゼロ(BTS「Lights」の18位が最高位)という結果もそう思わせるに十分です。一方で、言語の別に関係なくアレンジが同じであれば合算されるというチャートポリシーを踏まえれば、面白い結果が生まれているとも言えます。

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韓国先行でリリースされていた「FANCY」「YES or YES」は共に、後にシングル表題曲ではないものの日本語バージョンが制作され、そのバージョンが初加算されたタイミングでストリーミング指標(青の折れ線グラフで表示)を中心に再浮上、年間ソングスチャートで「FANCY」が34位、「YES or YES」が35位にランクインを果たしているのですが、日本語版リリースの前から既にロングヒットを続けていることが解ります。これは彼女たちの楽曲がリリースされるや否や聴こうとする人が多いことの証明であり、以前BTSについても同種の内容を書き記しています(なお「Lights」は日本オリジナル楽曲)。

これは今年アメリカで開催された音楽フェス、コーチェラ・フェスティバルで話題となったBLACKPINK「Kill This Love」(年間60位)等にも当てはまることで、K-Popの浸透を意味するのみならず、若年層主体に韓国語や文化へ積極的に接触していることを示す動きと言えるでしょう。一方で、日本オリジナル楽曲は所有指標群が強いながらも韓国語版ほど接触指標群が長く続かないというのが、シングルCDセールスに長けながら年間上位50位以内を逃したIZ*ONEの3曲(69位の「好きと言わせたい」、84位の「Vampire」、93位の「Buenos Aires」)の例等から判り、言語とは関係なくより好い曲を選別する姿勢も見えてくるようです。

 

 

⑨ 実力派バンドの台頭

年間アーティストランキングには先述したOfficial髭男dism(3位)やKing Gnu(12位)のみならず、『Eye of the Storm』を年間アルバムチャート3位に送り込んだONE OK ROCK(7位)をはじめMrs.GREEN APPLE(15位)やWANIMA(17位)等、若手を中心にバンドが台頭。ソングスチャートを構成するストリーミング指標では100位以内にバンドによる楽曲が42曲もランクインしており、今年オリジナルアルバムをリリースしたサカナクションBUMP OF CHICKEN、映画『天気の子』のサウンドトラックを手掛け今年の『NHK紅白歌合戦』に出場が決定したRADWIMPSも含め、中堅や若手バンドが台頭する1年となりました。そのうちMrs.GREEN APPLEは「青と夏」が年間ソングスチャート40位に入ったほか、65位に「ロマンチシズム」、86位に「インフェルノ」が入る等、大ブレイクへのステップを刻んでいます。

「青と夏」がブレイクの兆しをみせたタイミングでブログに書きましたが、ここでも上昇に大きく寄与したのはストリーミングおよび動画再生の接触指標群。サブスクリプションサービスへの解禁曲を限定しているback numberやRADWIMPSも年間アーティストランキングにおいて同指標で高位置となっていることから、やはりこれら指標群の重要性がよく解る結果となりました。

 

 

⑩ 洋楽低調の流れは止まらないのか

K-Popを除けば、一昨年の年間ソングスチャート50位以内には5曲ランクインした洋楽が昨年は1曲のみという状態。先月のブログエントリーにて今年のジリ貧な状況を憂いたのですが(今年度のトップ10ヒットはわずか2曲…日本で洋楽がヒットしなくなった状況を懸念する(11月25日付)参照)、今年は27位にエド・シーラン「Shape Of You」、49位にクイーン「Bohemian Rhapsody」と2曲がランクインしました。とはいえ集計期間中に新たに発表された楽曲のエントリーはゼロであり、71位のビリー・アイリッシュ「Bad Guy」が最高位というのは寂しいところです。

⑧にて合算について触れましたが、米ビルボードソングスチャートとは異なりビルボードジャパンではリミックス等でアレンジが異なったり客演参加の有無等により別の楽曲として判断されるため、ビリー・アイリッシュが大ファンだというジャスティン・ビーバーを招いたリミックス版は合算されませんでした。このバージョンが加算されたならば上位50位以内もあり得たでしょう。

合算すべき理由は上記エントリーで触れていますが、このままいけば洋楽がジリ貧を極めてしまい海外から大物歌手を音楽フェス等で招聘出来ないのではないかという懸念を強く抱いてしまいます。レコード会社の戦略練り直しも急務ですが、ビルボードジャパンソングスチャートにはチャートポリシーの見直しを求めたいところです。

 

以上10項目を取り上げてみました。今後追加等あれば記載する予定です。