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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンソングスチャートがより"社会的ヒットの鑑"になるための5つの改善点の提案

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点をソングスチャート中心に紹介する日ですが、今週はビルボードジャパンの年末年始休業のため、紹介はお休みします。

このようなアナウンスをそれも固定ツイートとして(最上位に登場する形で)提示するのは好いことです。これは2018-2019年には見られなかったことで、自分は昨年年明けにその点を指摘していました。

この一点だけとってみても、ビルボードジャパンソングスチャートがより好いチャートになったと言っても過言ではないでしょう。その他、この一年で変わったビルボードジャパンソングスチャートの中身と、さらなる改善点について今日は触れていきます。

 

ビルボードジャパンソングスチャートについては上記エントリーを含め、いくつかの改善要求を記載しています。10月にはチャートを構成する8つの指標それぞれの改善案を記載。

さらに週間チャート1位と2位の状況を踏まえ、シングルCDセールス指標についてはさらにウェイトを下げる必要性を唱えています。

そんな中、ビルボードジャパンは昨年度末、サブスクリプションサービスのSpotifyをストリーミング指標加算対象とし、さらに有料サービスと無料とでウェイトの差をつける加算方法を採用。これは自分が10月に書いた提案希望に沿うものであり、また米ビルボードソングスチャートのウェイト付けに倣ったものです。

チャート好事家からは、Spotifyの加算ならびにストリーミング指標のウェイト付けにより理想に近いチャートとなったという声も聞こえてきますし、自分も"社会的ヒットの鑑"たるチャートになったと捉えています。

 

この一年での改善案と改善内容は上記の通り。では、さらに好いチャートになるにはどうすればよいでしょうか。

 

まずは【各指標毎のウェイトの改善】について。これは先に紹介したビルボードジャパンソングスチャートを構成する8つの指標について、ウェイトならびに中身見直しを提案する(2019年10月20日付)の繰り返しにはなりますが、主だったところではシングルCDセールス指標のダウン(先述したビルボードジャパンソングスチャート1位および2位獲得曲から見えてきた、シングルCDセールス指標のウェイトを下げる必要性(2019年12月7日付)参照)が必要と考えますし、順位の変動が最も小さいカラオケ指標もダウンさせる必要があるでしょう。またTwitter指標についてはカウント対象から外し、米ビルボードに倣いTwitterの口コミチャート(歌手名を取り上げるSocial 50チャートのようなもの)を別枠で設けることも検討して好いかもしれません。その理由は8指標見直し提案に記載しています。

 

その提案時にも書きましたが、ラジオエアプレイと動画再生の2指標についても見直しが必要と考えます。ただしこれらはビルボードジャパンというよりは情報提供元であるプランテック(ラジオエアプレイ)およびYouTube(動画再生)の協力が必要でしょう。

ラジオエアプレイはサンプル局数が少なく、またコミュニティFMを網羅出来ていません。聴取者数の規模の問題もあれど、協力可能な程の人材や機材の確保が十分ではなく、とりわけ突如解禁される音源(たとえば再集結した東京事変が昨日リリースした「選ばれざる国民」など)を確保する機材的もしくは財政面での余裕がないものと考えます。突如解禁の音源等を即座に利用出来るシステムをFM/AM/コミュニティFMで区別することなく導入し、OAしたタイミングで手動打ち込みではなく自動でOA曲を送信するシステムが生まれれば、ラジオ局の手間は格段に省かれることでしょう。そうすれば必然的にラジオエアプレイ指標の精度が上がるものと考えます(し、それによりラジオが今の音楽をきちんと追いかけられるメディアに成るのではないでしょうか)。

動画再生については、カウント対象となるISRC(国際標準レコーディングコード)が付いていないものが未だに多くあり、その付番のシステム構築も課題ですが、一方でショートバージョンやティーザー、広告を本編の最中に挿入する作品はISRCを付番させないシステムを構築してほしいとも思っています。これは弊ブログで幾度となく、ショートバージョン等の動画再生指標の弱さを指摘しているゆえの考えです。

ラジオエアプレイおよび動画再生指標は、ビルボードジャパンは情報提供元から情報を受け取る立場ゆえ、【情報提供元の集計方法の改善】を求めたいと思いますしビルボードジャパンはそれを促してほしいと思います。

 

3つ目は【リミックスや客演の有無にかかわらず合算】が必要だということ。米ビルボードでは合算されているものが日本では非対象となっています。

実際、昨年日本でヒットし今年はドラマ主題歌として起用されることも決まったビリー・アイリッシュ「Bad Guy」は、ジャスティン・ビーバー客演参加版もラジオを中心にヒットしましたが合算されませんでした。これが合算されていたならば、「Bad Guy」は年間ソングスチャート上位50位以内に入っていたはずです。

上記エントリーでも述べましたが、海外の歌手にとっては特に客演参加版の追加導入が当たり前に(そしてそれが米ビルボードソングスチャートで戦略の一環と)なっている現状において、日本でそれが別扱いとなるならば、チャート上での洋楽は弱いままとなり日本でのプロモーションを控える歌手が出てくるかもしれません。そして邦楽においても、客演参加等のプロモーションをしたくても控える方が出ていることでしょう。これらはプロモーションのみならず、客演やリミックスという音楽文化が育たないことにも繋がりかねないゆえ、新たな戦略の形を認める必要があると思うのです。

 

4つ目は【ビルボードジャパンのチャート紹介番組の充実】。これについては2年前にエントリーを記載しています。

ニッポン放送ではチャート紹介番組がありましたが昨秋終了しています。

ラジオでチャート紹介番組があれば嬉しいのですが、実はビルボードジャパンでは昨年末より、ビルボードジャパンのいわゆる中の人によるチャート紹介ポッドキャストがスタートしています。

音楽は流せないため座談会もしくはおしゃべり的要素は強めですが、それでもこのポッドキャストが開始したことは大きな意義があると思いますし、座談会等形式ゆえ気軽に接することが出来ると考えます(実際自分は仕事の移動中に流しています)。更新はチャート紹介と同様毎週水曜であり、その番組配信までの速さも好いと思います。この番組が続くことで、川に例えるならば上流がしっかりしたことになるわけですから、下流である(既存)メディアもきっちり紹介してほしいと思いますし、ビルボードジャパンが働きかけてもいいと思います。

 

最後は【歌手による喜びの声の発信】。これはなにげに重要です。たとえば、最新1月4日付米ビルボードソングスチャートで「All I Want For Christmas Is You」が1位を獲得したマライア・キャリーは喜びのツイートを発信しています。

マライアの疑問は1990年代から4つの年代で首位を記録した初の歌手となったことに対してのもの(当初はおそらくその意味が解らなかったのではないでしょうか)。このような米ビルボードソングスチャートへの喜びのツイートはヒップホップ歌手でもみられ、例えばトラヴィス・スコットが「Highest In The Room」で首位を獲得したときのツイートは以下の通り。

他方、日本の場合はこのようなツイートがあまり見られません。オリコンデイリー●位等、CDセールスに対する反応はアイドル等中心に見られるにもかかわらず、なのです。最新12月30日付で「Pretender」が首位を獲得したOfficial髭男dismは、首位になったことはリツイートの形では伝えているものの、そこに自分たちの言葉を載せてはいません(Twitterアカウントはこちら)。

彼らをはじめ、首位を獲得した歌手がきちんとその喜びを伝えるだけで、ビルボードジャパンの重要性はファンを中心に広がっていくはずです。ならばビルボードジャパンは歌手側に積極的にツイートしてほしい旨を伝え、促してはいかがでしょうか。仮にそれをステルスマーケティング的だと批判されたならば、チャート自体はきちんと客観性を担保している旨を伝えて反論すれば好いと思います。

 

 

【各指標毎のウェイトの改善】【情報提供元の集計方法の改善】【リミックスや客演の有無にかかわらず合算】【ビルボードジャパンのチャート紹介番組の充実】そして【歌手による喜びの声の発信】。これらが少しずつ良くなっていけば、ビルボードジャパンはさらに"社会的ヒットの鑑"としての地位を確立することでしょう。