イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

三浦大知「I'm Here」のサブスクリプションサービスおよびミュージックビデオ解禁遅らせ施策は成功とは言えなかった

昨日は、ビルボードジャパンが作成したソングスチャートのSpotifyプレイリストにおけるサブスクリプションサービス未解禁歌手や曲の多さによる多数の漏れについて書きました。その際、当初三浦大知「I'm Here」が漏れていた事実に対し疑問を呈する声がありましたが、自分はこのように回答しています。しかし後になって【ビルボードジャパンが「I'm Here」を半ば”存在しなかった”ものとして当初捉えてしまったのでは?】と思うようになりました。つまり、シングルCDリリースから遅れて解禁されたことがそのような刷り込みを与えてしまったのではないかという。半ば邪推かもしれませんが。

この解禁の遅れについてはシングルCDがリリースされた1月15日に記載しました。

「I'm Here」のサブスクリプションサービスおよびミュージックビデオの解禁は、シングルCDリリースから16日後となる1月31日。前作「片隅」(2019)とは異なりミュージックビデオもフルバージョンとはなっています。

 

さて、曲がヒットする主な要因のひとつに、サブスクリプションサービスで多数のプレイリストに入ることが挙げられるということは昨日のブログエントリーで記載しました。

また、先週はロングヒットする曲の共通項として、ビルボードジャパンソングスチャートにおいて(サブスクリプションサービスの再生回数を元とする)ストリーミング指標がチャート構成比のおよそ5割であることが条件になることを示しました(また、同じく接触指標群の動画再生指標が2割強を占めることも共通しています)。その点において、今週シングルCDリリース前ながら首位を獲得したOfficial髭男dism「I LOVE...」は集計期間中の『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜21時)出演もあって同指標が伸び、ロングヒットのフェーズに入ったことも見て取れます。

では、三浦大知「I'm Here」はどうでしょう。

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最新2月17日付(集計期間:2月3~9日)はストリーミングおよび動画再生指標が初めて集計期間フルカウントされた週。ですが両指標とも300位以内には入りながら、100位圏外となっています。それでもこの2指標でチャート構成比の4割弱を占めています。

サブスクリプションサービス100万回再生で700ポイント強を獲得することについては、ロングヒットについて記した2月13日付ブログエントリーで示しています(→こちら)。最新週で50位に入ったSixTONES「NEW WORLD」が1292ポイントであることを踏まえ、71位の「I'm Here」を1200ポイントと仮定すると、チャート構成比に占めるストリーミング指標がおよそ25%であり同指標による獲得ポイントは300、そこから集計期間中における「I'm Here」のサブスクリプションサービス再生回数が50万に満たない可能性が高いことがここから見えてきます。先程Official髭男dism「I LOVE...」がMステ効果でストリーミング指標が伸びたと書きましたが、同番組で披露された「I'm Here」については放送日である1月17日にサブスクリプションサービス等が未解禁だったことから、本来解禁されていれば上昇効果が見られたはずの恩恵が受けられなかったことが想像出来ます。

プレイリストについても、思うところがあります。

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上記はSpotifyが毎週お勧めの新譜を紹介するプレイリスト、”New Music Wednesday”の2月5日水曜日公開分。邦楽は海外とは異なり未だ水曜リリースが主体の上、金曜版とは別に設けられています。さて、ここでの三浦大知「I'm Here」は21番目という、決して高いとは言えない位置に置かれているのです。プレイリストは上から再生していくユーザーが多いだろうことを踏まえれば、「I'm Here」まで辿り着きにくい状態となっています。だからといって選曲や位置付けを担当したSpotify側に違和感を抱くのは違うというのが私見。金曜リリースで時間が経っていたことや、既にシングルCDがリリース済であったことを踏まえれば、”鮮度”という点においてこの位置に置かれても仕方がないように思うのです。

 

ストリーミング指標の高くなさが示された「I'm Here」ですが、では最近の三浦大知さんのシングルCD表題曲と比較してみるとどうでしょう。

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上記は「Be Myself」(2018)以降のシングルCD表題曲における、CD関連指標初加算の前週からの5週分を提示したもの。「片隅」が極端に低いこと、「Blizzard」(2018)が逆に高いことを踏まえれば、「I'm Here」の比較対象は「Be Myself」が最も相応しいと思われます。シングルCD関連指標は順位的に勝っている一方、ストリーミング指標には大差が生じています。またユーザー(リスナー)が自由に選曲出来ない意味において間接的な接触指標と言えるラジオエアプレイでも大きく敗れています。

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こちらはビルボードジャパンシングルCDセールスチャートより、全国推定売上枚数が残っている2016年度以降の作品の初週売上をまとめたもの。「I'm Here」の初週売上はキャンペーンも功を奏してか、前作を大きく上回っています。

(というよりも、前作「片隅」においてはソングライターやその家族への不信感を表明する方(そう思われてもおかしくない、はっきりと悪態をつく一部のファン)が敢えて買わなかったという行動も見られたように受け止めています。買わない(ことで運営側に意志を表明するという)選択肢は自由でも、平然と悪態を付ける方がファンの中にいることで、ファン全体の印象、ひいては三浦大知さんの印象すら下がるように思うのです。嫌いなのは自由でも口に出す必要があるでしょうか…ということを述べさせていただきます。)

前作超えは成し遂げた「I'm Here」ですが、アニメや特撮作品のタイアップのような初週2万枚超えには至れていません。「Be Myself」の初週売上は超えながらも、プライムタイムのドラマ主題歌である「I'm Here」が深夜ドラマの主題歌となった「U」(2017)とさほど変わらない現状を踏まえれば、サブスクリプションサービスやミュージックビデオの未解禁がシングルCDセールス上昇にはっきりつながったのかと言われれば、微妙だというのが私見。これはつまり、1月15日付ブログエントリーにおいて想像した所属事務所のシングルCD売上至上主義的な意向は達成されなかったと見て好いと思います。

そしてその施策はあくまでCD売上を主軸にするという旧態依然の考えが根っこにあるわけで、その考えに芸能事務所側が立っている以上は三浦さんがこれ以上飛躍出来ないのではないかと強く危惧します。

三浦大知「I'm Here」のミュージックビデオ・サブスクリプションサービス未解禁はグラミー賞の夢を遠ざけやしないか(1月15日付)よ

「I'm Here」が次週以降ロングヒットするかの見極めも重要ですが、シングルCDありきの施策がもはや大きな意味を成さないことは、シングルCD未リリースのKing Gnu「白日」や菅田将暉まちがいさがし」、CD関連指標未加算でビルボードジャパンソングスチャートを制したOfficial髭男dism「I LOVE...」からも明らか。サブスクリプションサービスの再生回数が売上につながりにくい、CD売上は把握しやすいから主軸にする等の考えがあるとすれば、それは中長期的戦略ではない短期的、厳しい物言いですが敢えて書くならば短絡的とも言えるものの見方と言えるでしょう。

ロングヒットについて書いたブログエントリーに対し、元Spotify Japanの松島功さんからいただいたリプライは、レコード会社や芸能事務所にとって気付きになるものと考えます(勝手ながらツイートを紹介させていただきました。問題があれば削除いたします)。チャート構成比やレコード会社等の収入において上記のやり取りを理想形とするならば、サブスクリプションサービスやミュージックビデオの解禁は、シングルCDをリリースするならばそのリリース日までに行うことが絶対に必要です。

レコード会社や芸能事務所は利益確保の手段を見直し、所属歌手が創作したものを自由に世に放てる環境を与えるべきです。三浦大知さんが米グラミー賞受賞を最終的な目標に掲げるならば、米側にもきちんと届く施策を行えるよう、バックアップしてほしいものです。