イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

シングルCDセールスが目立つ歌手の弱点とは?ロングヒットに至らせるための方法を考える

一昨日発表された、3月23日付ビルボードジャパンソングスチャート。Official髭男dism「I LOVE...」の勢いの凄まじさについては昨日触れました。

そしてこの勢いは、ビルボードジャパン以外の媒体でも伝えられています。

他方、今週シングルCDセールスで首位を獲得したジェジュンBrava!! Brava!! Brava!!」は5位に登場。前週総合首位を獲得し、今週はシングルCDセールス2位となったJO1「無限大」は6位に。シングルCDセールスに長けながら上位に至れない状況となっています。

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総合チャートおよびチャートを構成する8つの指標の順位が一覧化されたCHART insightから最新週における1~7位を抜き出してみると、5位と6位が似通った動きをしており、一方で1~4位および7位が似ています。後者においてはそれぞれの曲のチャート構成比がロングヒットの法則をなぞっています(一部異なる部分もありますが、それについても下記ブログエントリーにて言及しています)。

この法則を踏まえて、5位および6位のCHART insightを見てみましょう。

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ジェジュンBrava!! Brava!! Brava!!」およびJO1「無限大」の特徴は、①シングルCDセールスに対しルックアップの順位が低い、②Twitterの順位が高い、③ストリーミングおよび動画再生という接触指標群の順位が低い…とまとめることが出来ます。そしてこの3つの特徴は、アイドルやK-Pop(の日本向け作品)等によくみられる傾向であり、この3点の克服こそがロングヒット、広く日本全体に親しまれるために必要なことと言えるでしょう。

 

まずは①、【シングルCDセールスに対しルックアップの順位が低い】について。ルックアップとは、パソコン等にCDを取り込んだ際にインターネットデータベースにアクセスされる数のことですが、この乖離について、昨年度以降首位もしくは2位を獲得した曲で比較してみましょう。

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順位の[ - ]は100位未満300位以内を、[   ](ブランク)はシングルCD未リリースによるカウント対象外を指します。シングルCDセールスに強いAKB48グループがシングルCDセールスを制しても同週のルックアップの順位は1位を獲れないことが多く、そこから売上枚数に対する購入者数(いわゆるユニークユーザー数)の多くなさが見て取れます。また[   ]のうち黄色で示したものは、シングルCDをリリースしながらもルックアップが300位に満たないことを示します。2019年度以降に該当する2曲(MONSTA X 「Alligator」およびMAG!C☆PRINCE「Try Again」)は2位獲得の翌週、100位圏外へ急落しています。

シングルCDセールスに長けた曲がルックアップで思うような順位を獲得出来ないことについては、(a)ユニークユーザー数が多くない、(b)パソコン等に取り込む人の割合が高くない、(c)レンタル数が多くない…ことが予想されます。特に(c)においては、今週リリースされたAKB48のシングルですら行きつけのレンタル店で2枚程度しか在庫が置かれておらず、今週シングルCDセールス11位ながらルックアップを制したOfficial髭男dism「I LOVE...」(総合1位)の5分の1程度の在庫数に。予算やレンタルされやすい作品の傾向を踏まえれば、レンタル店側が男性アイドルグループやK-Pop等においては名の知られた歌手を優先することが予想され、他のアイドル等は置かれないかもしくは置かれても極少数という可能性が高いのです。その点を考慮すれば、レンタルチェーンに対し在庫の拡充を働きかけることが大切になってくるものと思われます。

 

続いては②、【Twitterの順位が高い】について。

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最新3月23日付ビルボードジャパンソングスチャートのCHART insightから、Twitterの上位を抜き出したものが上記。ジェジュンさんの最新シングルCD収録の2曲、JO1のファーストシングルから「無限大」を含む3曲、さらに1月に同時デビューしたジャニーズ事務所所属のSixTONESおよびSnow ManのシングルCD表題曲が7位までを占めています。実はこのようなアイドル等が占める傾向はここ1年で顕著になってきています。

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SixTONESおよびSnow ManのシングルCDセールス初加算の前週、1月27日付のCHART insightにおけるTwitter順位では、既に2組のシングルCD収録曲が6位までを独占。ここから、アイドルのファンの方々がTwitter活動を積極的に行っていることが見えてきます。

歌手名と曲名がひとつのツイートに記載されればビルボードジャパンソングスチャートのTwitter指標に加算されるのですが、アイドルファンの中にはその加算を主な目的としたTwitterアカウントも存在し、Twitterでの活動の際には”ビルボード活動”的な名称が付けられることがあることも伺っています。昨日KinKi Kidsの新曲タイトルがトレンド入りしたように、アナウンスされたタイミングで口コミで広がるのは自然ですが、しかし熱心につぶやき続ける活動は人工的と言えるかもしれません。それらツイートはファン同士で盛り上がるゆえにファン以外の方のタイムラインに登場することは稀だと思われますし、もっと言えば邪魔になる可能性すらあります。以前、好んで観ていたドラマにあるアイドルグループ所属の俳優が出演していた際、その方の登場シーンになるとドラマのハッシュタグに、ドラマとは一切関係ない”アイドルグループ”と”新曲のタイトル”が併記されたツイートが散見され、ファンの熱心さは解れども不快感を抱いた次第。ファンがツイート活動に盲目的になるほどドラマのファンがアイドルグループに対してネガティブな印象を抱きかねないというやり方は違うと思うのです。

Twitter指標については以前、ウエイトの減少を提案しました。その理由は上記ブログエントリーにて記載していますが、その提案の時以上にTwitter指標の順位が固定化していること、Twitterの順位と総合とで乖離が発生していること(ウェイトが小さくないためか、今週はTwitter20位以内の曲がすべて総合で100位以内にランクインしているため、一見乖離が起きているようには感じにくいのですが)を踏まえれば、近いうちにビルボードジャパンがチャートポリシーを変更する可能性は十分あり得るでしょう。Twitterでの熱心な活動を、歌手のファンではなくとも歌手や曲に興味は抱いているいわゆるライト層を自然に増やすためにどうするか考える方向に舵を切ったほうが好いと思うのですが、いかがでしょう。

 

そして③、【ストリーミングおよび動画再生という接触指標群の順位が低い】について。先に紹介したジェジュンBrava!! Brava!! Brava!!」は両指標ともに300位以内に登場していません。ミュージックビデオが(というよりもどうやら彼の作品全体が)YouTubeにアップされていないため動画再生指標未ランクインは理解出来るのですが、サブスク再生回数を基とするストリーミングにおいて、たとえばSpotifyを見ると(下記キャプチャ参照)、新曲はシングルCDリリース日に解禁済。しかしストリーミングで300位以内に入っていない状況です。

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アイドル等シングルCDセールスに長けた歌手のファンについては、音源聴取がサブスクよりもCDから、ミュージックビデオ視聴はYouTubeではなくCDに同梱された映像版から…という場合が多いように思われます。それはそれで何ら問題はないのですが、サブスクやYouTubeはライト層がアクセスしやすいツールであることから、そこにアクセスさせる方法を考え実践し、ゆくゆくはライト層からコアなファンへの昇華を目指すべく働きかける必要があるでしょう。

 

今回は今週のチャートより取り上げたゆえ、ジェジュンさんおよびJO1への言及が多くなりましたが、CHART insightから各週の動向および曲毎のチャートアクションを確認すれば、アイドル等の多くが同様の弱点を抱えていることが解るはずです。CHART insightについては下記リンク先をチェックしてみてください。

①シングルCDセールスに対しルックアップの順位が低い、②Twitterの順位が高い、③ストリーミングおよび動画再生という接触指標群の順位が低い…これらアイドル等の3つの特徴、すなわちロングヒットに至れない弱点においては、ファンがヒットを願う意味でTwitter活動を行うゆえに②が発生するという矛盾を孕んでいます。ならば、たとえばツイートする場合にファン以外の方に向けた訴求を行うのが好いかもしれません。そこにミュージックビデオのリンクを貼りツイート内で再生が完了するようにする、もしくはSpotify等サブスクのリンクを貼り誘導させるのもひとつの手段です。歌手名と曲名だけを記載、またひとつのCDのカップリング曲も含めて複数の曲名を載せることは、ファン以外の方にとってはファンの目的がビルボードジャパン向けの活動にあると知ったならば尚の事心象が良くないように思われます。宣伝ならば外向けに曲自体を伝え、そうでないならば自然に聴きたくなる誘導の仕方を研究してほしいと思います。

 

しかしながら、ファンの活動には限界があります。ならば歌手側が率先して上記の誘導を行う必要があるでしょう。たとえばTwitter活動においては星野源さんの例が参考になるかもしれません。

ライブ参加者は必ずしもコアなファンに限らず、コアなファンの友人や恋人等も参加しているはずで、ライブ参加者につぶやきを勧めることは友人や恋人等ライト層(と定義付けられてもおかしくない方)のつぶやきも増え、そこからフォロワーに伝播していく可能性があります。先述したようなレンタルチェーンへの働きかけが現実的ではないとするならば、星野源さんの例は非常に現実的であり、やりやすいと思われます。

 

良曲をコアなファンの間だけで留めておくのは非常に勿体無いというのが私見。そしてその曲を広めるはずの活動が十分になされず、コアなファンの域を超えないこと、逆にコアなファンとライト層で温度差が生じていることは機会損失だと思うのです。自然で巧い手法が開発され、新たな定番となる曲が生まれることを願っています。