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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

シックスナインが首位を逃したのはチャートに不正があったから?…彼のクレームへのアリアナ&ジャスティンおよび米ビルボードの反論、そして私見を記す

日本時間の昨日早朝に発表された5月23日付米ビルボードソングスチャートでは、アリアナ・グランデジャスティン・ビーバー「Stuck With U」が初登場で首位を獲得しましたが、それに対し同日リリースされた「Gooba」が3位にとどまったシックスナインが"ビルボードの不正操作" "「Stuck With U」側の不正買収"により自身が1位になれなかったと主張。チャート発表前の主張および最新チャートについては昨日ブログに記載しています。

そしてチャート発表後もクレーム。

これに対し、「Stuck With U」側のアリアナ・グランデ、そしてジャスティン・ビーバーは共にコメントを発表しています。

アリアナ&ジャスティン側の反論については、ビルボードジャパンが訳し報じています。

チャート発表から数時間後、米ビルボードが最新5月23日付ソングスチャートについて、シックスナインのクレームに丁寧に応えています。

ビルボードはどうやって最新チャートの計算を行ったか』…自分は記事掲載直後に意訳してみたのですが(→こちらのツイートが起点)、NME JAPANの記事後半に大まかな訳が掲載されていたのでそちらを紹介します。

そこで今回、シックスナインのクレームに対するビルボードの反論について取り上げます。

(個人的には、ビルボードジャパンがこの米ビルボードの回答を今現在翻訳して記事にしていないことを強く残念に思います。米ビルボードが示したのは、唯一無二のチャートに問題はなく、また仮に問題があるならば積極的に調べ、さらに年1回以上のペースでチャートポリシーを見直すという、チャート責任者としての堂々たる姿勢です。ざっと検索するとシックスナインに感情的に肩入れしビルボードを非難する日本人も少なくないことから、彼らに聞いてもらう意味でも今からでも訳し報じるべきだったと思います。)

 

 

まずは不正購入について。仮にそのようなことがあった場合は集計から差し引き、また不正がないかについては今週登場したすべての曲を監視対象としていると述べています。

フィジカルセールスも含むダウンロード指標において集計期間最終日となる5月14日に売上が急増したのは、この日が『アリアナ・グランデジャスティン・ビーバーの公式サイトでサイン入りアナログ盤が発売』されたため(『』内は上記NME JAPANの記事より)。サインの有無は別としても、「Stuck With U」のみならず、前週首位のドージャ・キャット feat. ニッキー・ミナージュ「Say So」も、その前の週を制したザ・スコッツ(トラヴィス・スコット & キッド・カディ)「The Scotts」も、歌手の公式サイトでフィジカルをリリースしたことでダウンロード指標が伸び(フィジカルの購入者は手続き後、ダウンロードが可能となる)、首位獲得の一因となっていることから、歌手側がチャート上で仕掛ける常套手段となっています。また、そのような仕掛けがチャートに影響を及ぼした際、米ビルボードはトップ10速報等においてきちんと紹介しています。

フィジカル効果もあり当週10万を突破した「Stuck With U」。ビッグセールスとなった理由はアリアナ・グランデおよびジャスティン・ビーバーがアイドル的人気を誇るゆえにファンの所有欲が高いこと、サイン入りの発売がさらなる刺激を与えていること、そしてこの曲がコロナ禍に対するチャリティソングとしての特性も影響しているというのが私見。そして仮に今回のフィジカル施策をシックスナインが不正買収とするならば、「Gooba」が集計期間最終日になって同様の施策を採ったことにはどう説明するのでしょう。

 

そしてシックスナインのもうひとつの主張である、ストリーミングの不正操作により「Gooba」が不利になった点については、『ジャスティン・ビーバーと米『ビルボード』誌は共にストリーミング・サービスで表示される数字は世界的なものである事実を指摘している。米『ビルボード』誌はアメリカの数字のみを換算している』ため、この主張も誤りであることが判ります(『』内は上記NME JAPANの記事より)。これはビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標についても同様で、日本で再生されたものだけがYouTubeの加算対象となるのです。

付け加えるならば、米ビルボードソングスチャートを構成する3つの指標のうち最も大きなウェイトを占めるストリーミング指標においては、2018年7月13日付以降、指標内のウェイトが変更されています。簡単に言えば、有料サービスを利用するユーザーの1回の再生のほうが、無料サービスでの1回の再生より比重が大きくなるのです。

「Gooba」は後述する理由により、サブスクリプションサービスで配信はされていてもプレイリストからはことごとく外されています。多くの方がそれらサービスから直接楽曲検索してたどり着くこともあれど、一方YouTubeで再生した方も多いかもしれません。しかしそこで再生された分はサブスクの有料サービスで再生された分よりウェイトが小さく計算されるのです。

 

ビルボードは、チャートファンが提示するソングスチャートの予想については一切行っていません(ただし前週のドージャ・キャット feat. ニッキー・ミナージュ「Say So」とミーガン・ジー・スタリオン feat. ビヨンセ「Savage」のようにトップ争いが熾烈であれば、どちらが首位になるかの観点から報じることはあります)。ゆえにチャート予想を鵜呑みにすることは間違っています。ただ、フィジカル施策について、そしてストリーミング指標のウェイト変更についても、米ビルボードは歌手やレコード会社等の関係者以外である私たちにも広く知らせているわけですから、発し手がきちんと調べた上でチャート上でより有利になるべくフィジカル施策等を仕掛けることは出来るはずです。

 

 

ここからは私見と強く前置きした上で記載します。今回、クレームの規模が大きくなったことで看過出来なくなったとしてアリアナ・グランデ等がシックスナインの才能をきちんと認めた上で反論し、米ビルボードが説明責任を果たす形となりました。仮に不正があった場合には断固たる姿勢で対処しまた適宜見直しを行う(そして少なくとも年1回のペースでチャートポリシーを変えていく)米ビルボードの姿勢も解りました。その内容を支持します。他方、それらとは対象的に身勝手なクレームを喧伝し、アリアナ・グランデジャスティン・ビーバー、もしくは米ビルボードへのヘイターや懐疑的だった人も巻き込んだ炎上的手段を採ったシックスナインについては、名誉毀損として訴えられてもおかしくないのではないかと思うのです。

元々シックスナインは殺人の共謀罪を認め、服役していました(→こちら)が、新型コロナウイルスの影響もあってか今年の春に釈放されています(→こちら)。元来刑期はこの夏までだったとのこともあり、反省し改心していると思いたいところですが、しかし米ビルボードへのクレームをみる限りはあまりにも自己中心的であり、他者非難をしないと自身の優位性を示せないという幼さを感じてしまいます。アメリカは罪を犯した者の社会復帰が速い印象がありますが、それはおそらく彼らがきちんと反省したと信じているゆえだと思うのです(他方、日本の場合は復帰にも時間がかかる上に、更正した後も周囲がいつまでも過去の犯罪を取り上げる傾向があると感じます)。しかしシックスナインにおいては今回のクレームで顕著なように、反省はほぼ見られないというように感じています。その姿勢ゆえでしょう、サブスクリプションサービスでは「Gooba」がプレイリストから外されているのみならず、ラジオ局からは無視とすら言える事態となってしまいました。ラジオエアプレイ指標はわずか172000であり、「Stuck With U」の2630万とはあまりにも対照的ですし、2週前に首位を獲得したザ・スコッツ「The Scotts」の550万にも遠くおよびません(2週前のチャート速報はこちら)。ヒップホップはラジオエアプレイに強くない傾向がありますが、「Gooba」の低さはあまりにも突出しており、彼の素行不良による敬遠だと考えるのが自然です。また、仮に「Gooba」が彼の望む通り今週の米ビルボードソングスチャートを制したところで、デジタル配信が初加算されダウンロードやストリーミングといった指標群が牽引して上位に登場した曲は翌週ダウンロードが急落、ストリーミングも緩やかに下降する傾向があり、他方ラジオエアプレイは徐々に上昇していくもののそれでも2指標を補完出来ないことが多いため、総合チャートでの急落は必至でしょう。「Gooba」が遅れてフィジカル施策を開始したことでがどこまで影響するかは解りませんが、次週トップ10入りをキープすることは厳しいのではないでしょうか。

 

 

チャートの計算方法等は難しいですが、調べればみえてくるものがあります。それをきちんと調べようとせずクレームばかり述べるのは問題です。ならば疑問をきちんと問い合わせることを勧めますし、問題だと思えば調べる気概を持ち合わせ、いずれにせよ謙虚であることを望みます。シックスナインからはそのような姿勢が何らみえず、炎上に加担するファン等共々、そのやり方は間違っていると強く思うのです。