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チャート愛好家。ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

平成を代表する曲が映画化されるタイミングで、中島みゆき「糸」がチャートを上昇するために必要なことを考える

8月21日に公開される映画『糸』。この作品で主演を務める菅田将暉さんによる、石崎ひゅーいさんとタッグを組んだエンディングテーマが17日金曜に解禁されました。

「糸」は中島みゆきさんのカバー曲。オリジナルは1992年のアルバム『EAST ASIA』に収められた後、ドラマ『聖者の行進』(1998 TBS)主題歌に起用されシングル化。Bank Bandが2004年にカバーして以降は様々な歌手に取り上げられ、また多くのタイアップに起用されています。現在では結婚式のBGMやカラオケの定番曲となり、前年度の著作物使用料分配額が多かった上位作品に贈られるJASRAC賞では2016年に3位、そして2017年に1位を記録(その後、2019年および2020年も3位を記録)。昨年、元号が変わる前日に缶コーヒーのCMに起用されたこともあり、「糸」は平成を代表する曲になったといっても過言ではありません。

 

さて、映画公開のタイミングで注目が集まるであろう、中島みゆきさんによる「糸」。ビルボードジャパンがカラオケ指標をソングスチャートに加えて以降、同指標では安定した成績を収めているのですが、ソングスチャートで十分にヒットしているとは言い難いと捉えています。

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ビルボードジャパンソングスチャートのチャート推移(CHART insight)、直近90週分をみると、2019年度からスタートしたカラオケ指標では常時20位以内に入っています(コロナ禍で一時集計取り止めしていた時期を除く)。しかしこのCHART insightで遡ることのできる2014年度以降、「糸」の最高位は2016年6月27日付の44位であり、一度としてトップ40入りを果たしていません。ならば「糸」が再度ヒットに至るにはどの指標の盛り上がりが必要か、考えてみたいと思います。

 

最高位を記録した前後、2015年6月1日~2017年2月13日付のCHART insightをみてみると。

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青の折れ線グラフはストリーミング指標を示します。現在ではサブスクの再生回数が基になっていますが、Apple Music等サブスクサービスの加算開始は2016年12月12日付であり、それまではプチリリにおける歌詞表示回数(を通じてストリーミング数を推定すること)が同指標の基礎となっていました。先程JASRAC賞で2年連続3位以内に入ったことを述べましたが、おそらくは結婚式等で「糸」を使う方が歌詞を確認するという行動が、ストリーミング指標の盛り上がりにつながったものと思われます。しかし現在、ストリーミング指標で「糸」は300位前後を繰り返しており、当該指標を十分獲得するに至っていません。

中島みゆきさんは今年、Amazon Music UnlimitedおよびAmazon Prime Music限定で一部楽曲をサブスクにて解禁しました。

Amazon Music Unlimitedでは現段階で91曲が、Amazon Prime Musicでは12曲が聴取可能。双方に「糸」が含まれていますが、一方でSpotifyApple Musicでは未だ解禁されていません。またビルボードジャパンソングスチャートにおけるストリーミング指標は現段階にて、Amazon Prime Musicはカウント対象外となっています(同サービスがAmazonプライム加入者へのサービス的な位置付けにあることが集計に取り入れにくい理由ではないかと思われます)。Amazon Prime Musicでいくら再生されてもストリーミング指標に反映されないこと、そしてSpotify等での未解禁により、「糸」はストリーミング指標で盛り上がりに至れないものと考えられ、またサブスクサービス限定で解禁という方策は他のサービス加入者からすれば不満の元になってしまうのではと思うのです。ゆえに、早急にサブスクサービス全般に解放することが必要だと考えます。

 

また動画再生の弱さも気掛かりです。2014年度以降、同指標は通算2週のみの加算にとどまり、ランクインした2週とも100位未満(300位圏内)となっています。この原因はオリジナルバージョンのミュージックビデオが作られていないだろうこともありますが、たとえばYouTubeで”中島みゆき 糸”と検索すると、現段階で真っ先に登場するのは歌い手知らずによるカバーなのです。この動画の発信者に公式のマークが付いているのみならず、現段階で8600万を超える再生回数を獲得していることで、動画は歌い手知らずながら信頼を得ているだろうことが解ります。仮にYouTube中島みゆきさん本人による動画がアップされていたならば…と、その著しい機会損失が悔やまれてなりません。

仮にオリジナルバージョンのミュージックビデオが作られていないとしても、現在ではリリックビデオやアニメーション等の公式動画を後から作成して動画再生指標を獲得するという方法があります。アメリカではクリスマスの時期に過去の名曲が上昇するのがこの数年の傾向ですが、サブスクの再生回数が反映されるのみならず、昨年は過去の名曲に新たにミュージックビデオが用意されたことでさらなる上昇につながりました。

これら制作にたとえ着手できなかったとしても、オリジナルバージョンの音源を利用している動画に権利者側から許諾を与え、ユーザー生成コンテンツ(UGC)として半ば公式化させ、カウント対象にするという手段もあります。

 

 

「糸」をモチーフにした映画が公開されれば、また菅田将暉×石崎ひゅーい「糸」が人気となれば、自ずとオリジナルバージョンがカラオケ中心に盛り上がるはずです。他方、そのオリジナルバージョンはポイントが十分に獲得できる環境にありません。他のサブスクサービスへの解禁や動画の用意は中島みゆきさんご本人の意向が最優先となるでしょうが、より多くの方が接触できる環境を用意し接触指標群を充実させることが今のヒットの基礎になっていることはこのブログで幾度となく記載しています。2020年のヒット曲のひとつに「糸」を加えるという意気込みを持って、是非とも中島みゆきさんサイドにはチャート上昇の施策を検討していただきたい…そう強く思っています。