イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アメリカの最新ソングスチャートを毎週追いかける理由…日本のチャートの今後の傾向が先取りできるのです

このブログでは毎週、ビルボードジャパンソングスチャートと共に米ビルボードソングスチャートの最新動向を取り上げています。日本時間の火曜早朝(現地時間の月曜)に発表される米ビルボードソングスチャート速報はビルボードジャパンでも昼前後に記事になるのですが、勝手ながらこちらでも翻訳し、いち早く紹介しています。

昨年末に亡くなったジュース・ワールドがアルバムチャートを制した勢いがソングスチャートトップ10の半数占拠へと波及した昨日のチャート。この状況はある種イレギュラーではありますが、しかしこのチャートの動きも自然であり、且つ日本でも同種の動きが出てきています。アメリカの最新チャートを追いかけていくのは実に意義深いことなのです。というわけで、アメリカの最新チャートを追いかける理由、そして見えてくるものについて3点、取り上げようと思います。

 

アメリカの最新チャートを追いかけていくと見えてくるもの、最初は日本における新しいヒットの形をいち早く知ることができるということ。コロナ禍で自粛期間が増えたことでネット視聴時間が増え、TikTokYouTube発のヒットが増えたという日本の動向については弊ブログにて幾度となく取り上げています。

YOASOBI「夜に駆ける」やyama「春を告げる」、最近ではTani Yuuki「Myra」等がチャートを賑わせ、「Myra」同様にデジタルディストリビューションサービスのTuneCore Japanからリリースした瑛人「香水」はビルボードジャパンソングスチャートを制しました。

「香水」を例に取り上げるならば、歌ってみた等各種動画によるバズの発生、そして瑛人さんがレコード会社や芸能事務所に所属していないこと…ここから想像されるのは、昨年米チャートで19週1位となり最長記録を更新したリル・ナズ・X「Old Town Road」。後にカントリー歌手のビリー・レイ・サイラスをフィーチャーしてさらなる大ヒットとなったこの曲ですが、初の1位獲得時は単独クレジットでした(オリジナルバージョンより客演参加版がよりストリーミングやラジオ等で支持されれば、楽曲のクレジットは客演参加版になります)。

 「Old Town Road」の大ヒットから1年、新型コロナウイルスにより新曲のリリースが控えられたことでこのようなヒットの形が目立ったという見方もありますが、日本のチャートには確実に動画の力やインディペンデントでも活躍できる環境が浸透しているのです。

また、最新の米ビルボードソングスチャートではジュース・ワールドがトップ10の半数を占め、51位までに17曲がランクインしています。これはアルバム『Legends Never Die』がサブスク等ストリーミングで多く聴かれたことによるもの。

アルバムがサブスクで大量に聴取されたことでソングスチャートに波及するケースは2年前のドレイク『Scorpion』における7曲トップ10入りに代表されるようにここ数年で目立ってきていますが、この動きも日本で少しずつ登場。昨年2月25日付、アルバム初登場のタイミングでONE OK ROCKあいみょんさんがソングスチャートに大量エントリーを果たしたことも特筆すべき点ですが(あいみょん、ONE OK ROCKから見えてくるストリーミング"同時解禁"の重要性…2月25日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック (2019年2月21日付)参照)、最近ではNiziUのプレデビューミニアルバム『Make you happy』から表題曲がストリーミング再生回数で新記録を達成したほか、収録された4曲すべてがソングスチャートで20位以内に登場しています。

NiziUの場合はCD未リリースのためストリーミングでの聴取がより顕著になったと言えるかもしれません。CD未リリースは海外では結構みられるようになっており、この動きもまたアメリカのそれをなぞっていると捉えてよいでしょう。

 

アメリカのチャートを毎週追いかけていくと見えてくるもの、2つ目は日本における新たな洋楽曲の流行をいち早く知ることができるということ。先にTikTok発のヒットの形について提示しましたが、そのTikTokの公式チャートをみると面白いことが解ります。

先週金曜に更新された最新のTikTokソングスチャートはこちら。

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先述したTani Yuuki「Myra」が強さを発揮する一方、洋楽(K-Popにおける韓国語曲も含む)は実に10曲以上がランクインし3分の1以上を占拠。ビルボードジャパンソングスチャートで洋楽がトップ10入りすること自体が珍しい一方で、この占有率の高さには驚かされます。そしてここには、最新の米ビルボードソングスチャートで6週目の首位を獲得したダベイビー feat. ロディ・リッチ「Rockstar」が含まれているのです。

とはいえこの「Rockstar」には先月の段階で『TikTok上でダンスムーブメントができあがる』という指摘もあり、また先週まで米でトップ10入りしていたリル・モジー「Blueberry Faygo」等も同様にTikTok発のヒットといえます。おそらくは日本で、米ビルボードソングスチャートに関係なくTikTokで使われているから(日本でも)使うという流れがあるのでしょう。しかし使用や視聴していくうちにその曲がユーザーに沁み込み、いつしか動画を離れサブスク等で聴くようになりTikTokを超えたヒットに波及する可能性もあるのではないでしょうか。TikTokとの関連性も含め、次に日本でブレイクするかもしれない(そして海外では既に大ヒットしている)洋楽をいち早くチェックできるというのも、米ビルボードソングスチャートを追いかける理由のひとつです。

 

アメリカのチャートを毎週追いかけていくと見えてくるもの、最後は日本で今後人気になるであろうジャンルを察知できるということ。最新の米ビルボードソングスチャートではポップスに該当する曲がトップ10から外れ、ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」を除きヒップホップが寡占状態となっています。しかし、たとえばジュース・ワールドはロックミュージックにも影響を受けたエモ・ラップというジャンルを代表するラッパーであり、今週2位に初登場を果たした「Come & Go」は、共演したマシュメロの影響もあってロックのみならずダンスミュージックの要素も多く含んでいます。

一方で唯一ヒップホップ以外のトップ10入りとなったザ・ウィークエンド「Blinding Lights」も、純粋なR&Bというよりはa-ha「Take On Me」を想起させるニューウェイヴの影響が大きく、特にラジオエアプレイで強く支持されるのはこの曲がリスナーのノスタルジーを掻き立てるからではないかと思うのです。さらに、今年史上最長となる39週トップ10入りを記録したポスト・マローン「Circles」は、ヒップホップというよりは完全な歌モノとなっています。

日本ではヒップホップのチャート占有率や売上が他国に比べて低いと言えますが、たとえばビルボードジャパンソングスチャートで最高20位を記録したRin音「snow jam」は、ヒップホップながらメロディラインがはっきりした曲。

このヒップホップの歌モノという傾向等ひとつのジャンルに括れない曲は、たとえばYouTubeが当たり前になった2010年代以降にデビューした歌手にとっては自然に紡ぎ出されるものとだと考えますが、米ではいち早くこのような曲のジャンルレス化が顕著になっているものと考えます。そして同種の現象が日本でも起きていくはずです。

 

 

これら3点が、毎週最新の米ビルボードソングスチャートを追いかける自分なりの理由です。無論、ただ純粋にチャートアクションが好きだったり、早起きするとちょうど米ビルボードソングスチャートが発表されていたということも理由にはなるのですが、ビルボードジャパンソングスチャートを分析する際の参考になっていることは間違いありません。是非とも米ビルボードの速報を参照しつつ、チャート分析の血肉にすることをお勧めします。