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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

10月12日付ビルボードジャパンアルバムチャートで丸一年ランクインを達成したOfficial髭男dism『Traveler』から見えてくるものとは

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を紹介します。

9月28日~10月4日を集計期間とする10月12日付ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)、初週のシングルCDセールス加算に伴いHey! Say! JUMP「Your Song」が制しました。

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シングルCDセールスのみならずルックアップ、Twitterが1位、またラジオエアプレイも2位と高位置に。ジャニーズ事務所所属歌手の作品はコロナ禍以降ラジオエアプレイが強い印象がありましたが、その中でも特筆すべき位置と言えます。また、CDは3種リリースでカップリング曲が全種異なりますが、CD表題曲を含む6曲すべてがTwitter指標13位までに登場。カップリング曲の異なるCD収録曲すべてがランクインする現象からは、ファンによるTwitter活動が見て取れます。

他方、2週前に首位を獲得したKis-My-Ft2「ENDLESS SUMMER」は前週の53位から、V6「It's my life」は前週の2位から、どちらも100位圏外となってしまいました。いずれもシングルCDの初週セールスに伴い1位もしくは2位となりながら、ソングスチャート滞在期間は極端に短いものとなっています。

上記の通りジャニーズ事務所所属歌手はコロナ禍においてもCDセールスが強いのですが、もしかしたら売上がより初週に偏ってきているのかもしれません。そしてデジタル未解禁が接触指標の伸びにつながらないとも言えそうです。

 

 

さて今週は、Official髭男dism『Traveler』を取り上げます。今週のアルバムチャートで14位に入り、52週連続、丸一年チャートインを果たしました。

他にも長期滞在の作品はありますが、『Traveler』の凄いところは3指標がいずれも高位置をキープしていることにあります。

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アルバムチャートは47週連続でトップ10入り。CDセールスは今週がこれまでで最低となる27位となっていますが、ダウンロードは20位以内、そしてパソコン等に取り込んだ際インターネットデータベースに繋がった数を示すルックアップが5位以内を常時キープしているのは極めて素晴らしいことです。

 

チャート推移および判明しうる限りの数値をまとめると、面白い傾向が見えてきます。

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ビルボードジャパンの上半期チャートで『Traveler』がKing Gnu『CEREMONY』に次ぐ2位を記録したタイミングで作成した表は下記ブログエントリーに掲載しました。その表を加筆修正したのが上記となります。

コロナ禍に伴う緊急事態宣言発令期間はCDリリースが全体的に抑えられたことで『Traveler』が上位滞在できたという声があるかもしれませんが、緊急事態宣言解除後も好調なアクションが続いているのは作品、そしてOfficial髭男dism自身の人気の証。今年に入ってからリリースされた「I LOVE...」や「HELLO EP」収録曲がソングスチャートで好調に推移していますが、これらの(CDに先駆けた)配信ならびにCDリリースのタイミングで、『Traveler』のセールスが上昇していることが解ります。

 

そして注目は8月10日放送の『CDTVライブ!ライブ!』(TBS 月曜22時。同日放送回は4時間スペシャル)における1時間近い”ヒゲダンフェス”開催。放送日が集計期間初日にあたる8月24日付では総合で5→2位に上昇、CDセールスは前週比163.6%、ダウンロードセールスは同214.3%となっています。『NHK紅白歌合戦』放送前後もセールス増加につながっていましたが、インパクトのあるメディア露出がアルバムセールス等に大きく貢献したのは自明です。

このヒゲダンフェス効果、ソングスチャートの面から以前まとめていました。

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上記表は下記ブログエントリーに掲載したものであり。このエントリーにおいて、ヒゲダンフェスの影響は『「HELLO」以外はすべてポイントが上昇。一方で「HELLO」はポイント前週比が77.0%とダウンしているものの、シングルCDセールス加算2週目における加算初週からの反動に伴うものであり、シングルCDセールスが前週の4分の1未満となりながらポイントの落ち込みが2割強にとどまっているのは他指標の上昇によるもの』と指摘しました。

加えて上記エントリーでは、『ほぼすべての曲でストリーミングおよび動画再生指標という接触2指標が上昇し、全曲2指標50位以内となっていることを踏まえれば、チャートを押し上げるのに効果的且つメディア露出が反映されやすいのはこれら接触指標群と言えるでしょう』とも記載しましたが、ヒゲダンフェスはこの接触指標の上昇のみならず、ルックアップ以外は所有指標で構成されるアルバムチャートにも反映されたと言えるでしょう(ただし、ルックアップには購入者のパソコン等への取り込みも含まれますので接触指標とは断定できないのですが)。おそらくは放送直後に接触した方のうち、行動を所有に移した方が少なくないのではと思うのです。

(一方で、9月26日開催のオンラインライブの効果はヒゲダンフェスに比べれば見えにくいかもしれません。ただし、オンラインライブ開催日を集計期間に含む10月5日付、および翌週のソングスチャートにおいてポイント前週比が1割以上ダウンする曲がほぼなかったことから、一定の成果は得られたはずです。とはいえ地上波テレビでのヒゲダンフェス開催のほうが、ライト層を取り込み一部をコアなファンに昇華させるのにより効果的だったと言えそうです。)

 

 

『Traveler』の丸一年におけるランクインからは、アルバムリリース以降の新曲投入ならびにテレビ出演でのインパクトが刺激になったことが解ります。そして接触指標の充実が所有指標に昇華していることが見て取れ、ライト層を確実にコアなファン化させていることもまた解るのです。Official髭男dismにおいてはサブスクならびにミュージックビデオのフルバージョンでの解禁を徹底し、またSNSでの告知に長けていること(ツイートの徹底やそのタイムリーさ等は、松島功&宮本浩志が教える、デジタルプロモーションで押さえておくべきポイント | 令和のアーティストとSNS 第1回 - 音楽ナタリー(9月4日付)にて指摘されています)で、コアなファンを築き上げるための基礎固め、すなわちまずは接触してもらうことが完璧に出来上がっていると言えます。そしてその成果こそが『Traveler』のランクインに反映されていると思うのです。

 

 

日本の音楽業界においては接触できる環境を十分に整えていない歌手が未だ少なくありません。おそらくは旧来の所有指標を押し上げることを最優先とし、接触環境の充実が所有を妨げると捉えているのではないかと思いますが、その考えが杞憂ではないかということを、Official髭男dismが、『Traveler』が証明したのではないでしょうか。