イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

フィジカルとデジタルを共に充実させることが、最良のチャートアクションにも満足度上昇にもつながる

LiSA「炎」が米ビルボードによる2つのグローバルチャートでトップ10入りしたことはこのブログでも紹介しましたが、ビルボードジャパンでも米ビルボードの記事を翻訳して掲載。テレビ報道も少しながら確認でき、その凄さが少しずつ伝わっていると感じます

しかしながら、そのリアクションの中に考えさせられるものがありました。CDセールスに長けた歌手のファンと思しき方の発言で、しかしその歌手はデジタルを解禁しておらず、またミュージックビデオは解禁していながらもショートバージョン。その前提で”海外限定でサブスクを解禁したらどうか?”とする発言に、強い疑問を抱くのです。

 

グローバルチャートにおける日本人歌手の上位進出は、ほぼ日本における所有や接触が要因である以上、日本の楽曲の海外進出ができていない状況でサブスクを"海外限定で”と提案するのは無理があります。また、デジタル解禁すればシングルCDセールスが売れなくなるという思いがあったのかもしれませんが、必ずしもそうはならないことは以前からブログで説明しており、むしろサブスクを解禁することでライト層を増やしそのライト層がコアなファンへと昇華する可能性が、その考えによって妨げられるのです。

さらに、YouTubeに動画をアップしていながらショートバージョンであるならば、再生回数が思うほど伸びないことも以前から指摘している通り。ビデオに関して、リアクション主は自身が好きな歌手やその歌手が所属するレコード会社さらに所属芸能事務所に対し、フルバージョンでアップしてくださいと提案したほうが圧倒的に好いはずです。

 

LiSA「炎」はミュージックビデオフルバージョンを解禁したことで、ビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標で「紅蓮華」が成し遂げなかった首位を獲得しています。「紅蓮華」も「炎」人気で最新チャートにおいて動画再生指標が最高位に達しましたがそれでも6位であり、ショートバージョンでは思うように伸びないことのひとつの証明と言えるでしょう。無論、主題歌となった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の大ヒットがチャートの躍進の最大の理由ではありますが、しかしミュージックビデオのフルバージョン公開はその躍進を支える一因に間違いなく成っているのです。

「炎」はシングルCDをデジタルの解禁週にリリース。となるとこの「炎」は、デジタルをリリースしながらCDも発売する作品において理想のチャートアクションを示していると言えます。ゆえに、先述した『海外限定でサブスクを解禁したらどうか?』という提案、言い換えれば日本国内ではデジタル解禁しないという手法は誤っているとはっきり言えるのです。

 

 

楽曲の世界的なヒットの指標となるグローバルチャートでシングルCDセールスが入っていないのは、アメリカ等では小売店でシングルCDが流通していない、さらに小売店自体が多くないという現状があるためと考えられます。海外の状況を踏まえればCD文化が旧態依然という見方もありますが、しかしCDがいずれなくなるとしても音楽業界が早々に手放すことは難しいだろうというのが私見です。

ならばそのCDとデジタルとを、お互いの好い点を活かしながら双方で充実させることこそ最良ではないかと思うのです。シングルCDとデジタルの双方を同週解禁したLiSA「炎」はスケジュールの組み方を徹底しており、これがビルボードジャパンソングスチャートでシングルCDセールス加算初週における週間3万ポイント突破の原動力になったことは間違いありませんし、最新11月2日付ではさらにポイントを伸ばしていることは上に貼付したリンク先にある通りです。

 

 

そのCDとデジタルの両立において個人的に注目したいのは、藤井隆さんのプロデューサーとしての巧さ。自身のレーベル、SLENDERIE RECORDから10月28日にリリースしたコンピレーションアルバム『SLENDERIE ideal』は収録曲の大半をお笑い芸人の方が務めていますが、楽曲とのシンクロ度合い、そして楽曲自体が素晴らしく個人的にお勧めしたいところ。

以前、全て架空のCMタイアップという度肝を抜く演出が話題となった藤井隆さんのアルバム『light showers』(CM集はこちら)に続き、90年代レコード会社のCMを模した今作のCM集もまたクオリティが高く、懐かしのCMが好きな藤井さんのセンスが溢れているように感じます。

今作『SLENDERIE ideal』は購入店舗によりアザージャケットが付いてくるのですが、藤井隆さんのInstagramアカウントにも掲載されている画のセンスの好さを見れば、それだけでCDの購入意欲が掻き立てれる気がします。

そして注目は当該コンピレーションアルバムがきちんとデジタルに対応しているということ。

しかも、1曲目を除く全曲がシングルとしても扱われ、全曲にオリジナルカラオケ(一部インストゥルメンタル表記)が用意というのも見事。またアルバムから今週水曜に麒麟川島明「where are you」のミュージックビデオが公開されていますがきっちりフルバージョンでの公開となっています。

米では最近インストゥルメンタルのリリースが多く、どちらかといえばソングスチャート対策としての意味合いが大きいかもしれません。一方で日本でもインストゥルメンタルは増えており、そのリリースは歌手側のこだわりが原点になっていることが多いと感じています。

  

『SLENDERIE ideal』が次週どのようなチャートアクションを示すかは解りかねますが、パッケージを購入する人にもまたサブスクやYouTube接触する人にとっても、とても親切な作品であることは間違いありません。細部へのこだわりもまた藤井隆さんのプロデューサーとしての手腕と言えます。

CDの付随品や特典、収録曲数等を豪華にしてデジタルとの差別化を測るというのは近年よく見られますしそれ自体も好いことですが、デジタルをさらに充実させた『SLENDERIE ideal』は今の時代において最良の例と言えるのではないでしょうか。内容は勿論のこと、フィジカルとデジタルの両立においてその満足度は非常に高いのです。