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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

今年の『NHK紅白歌合戦』出場歌手選考方法や出場/落選歌手に関する私見(8+1)

16日月曜、今年の『NHK紅白歌合戦』(以下、紅白)出場者が発表されました。

近年の紅白からは、社会的なヒット曲をきちんと拾い上げる姿勢が見て取れます。特に昨年はOfficial髭男dism、King Gnu、LiSAさんそして菅田将暉さんの初登場が顕著な例であり、「白日」「まちがいさがし」はCDセールス自体行っていないゆえ、(CDセールスに特化したランキング以上に)ビルボードジャパンソングスチャートをきちんと参考にしているという姿勢がはっきりと伺えます。このチャートが社会的なヒットの鑑になってきていると捉える身には、紅白スタッフが間違いなくビルボードジャパンソングスチャートを汲んでいると実感しますし、また「Pretender」「紅蓮華」のCDセールスが数十万規模に達しないとしても彼らの出場をおかしいと指摘する声がほぼ聞こえなかったことから、広く世間にも複合指標に基づくチャート(およびその重要性)が無意識のうちに浸透しているのではと考えます。

 

その紅白の選考基準、今回に関してはこのように記されています。

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(選考について | 第71回NHK紅白歌合戦より。URLが71回と限定されたものではないため、今後選考方法が変更される可能性を踏まえてキャプチャを実施しました。問題があれば削除させていただきます。)

複合指標から成るビルボードジャパンソングスチャートは今年の活躍に該当します。また紅白には番組独特の出演者(傾向)が存在しますが、これは世論の支持を反映させた結果と言えるでしょう。

 

それらを踏まえ、現段階で今年の紅白における気になる点を挙げてみます。

 

① YOASOBIが出演者にクレジットされていない事態

今年の紅白、初登場は10組となりました。

ここにYOASOBIの名はありません。

昨年リリースされたデビュー曲「夜に駆ける」はビルボードジャパンソングスチャートで通算6週首位を獲得し、年間1位が確実とみられます。また彼ら自身が紅白出演を切望する姿勢を『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)等で示しています。チャートを考慮する紅白、オファーがあれば断るはずがないYOASOBI…にも関わらず、なのです。

とはいえ、追加出演として発表されるのではというのが私見。1月6日には初のEP『THE BOOK』がフィジカルでもリリースされるため、紅白出演が売上アップのステップになることは確実。おそらくは紅白を初のパフォーマンスの場と位置付けているため、今出演をアナウンスすれば他の番組に無礼に当たる(既にオファーを断っているため、紅白出演をこの段階で発表してしまえば道理が通らない)ゆえにアナウンスできないのではないかというのが自分の予想です。

実際、ファンとのエンゲージメントを人一倍大切にし、またライト層の取り込みにも長けた彼らが、紅白出演者発表以降のツイートにおいて一切紅白について言及していないのは不自然でしょう。あれだけ紅白を切望していたのですから、落選ならば夢が叶わなかったため来年頑張る等の決意表明が行われるはず。ならば、実際は既に決まっているゆえ落選のアナウンスができないと捉えるのが自然だと思うのですが、考えすぎでしょうか。

なお「夜に駆ける」はカラオケでも14週連続で2位を記録しており、世間へは十分浸透していると言えます。

 

② NiziU、櫻坂46…正式デビュー前ながら初出場

NiziUについては、プレデビューと銘打ったミニアルバムからのタイトル曲「Make you happy」がビルボードジャパンソングスチャートで最高2位、現段階で19週連続トップ10入りを記録しており社会的ヒットと言えます。一方で、NiziUの正式デビューシングル「Step and a step」リリースの翌週に「Nobody's fault」でCDデビューを果たす櫻坂46は、改名前の欅坂46として今年リリースしたのがベストアルバムのみ。アルバムはビルボードジャパンアルバムチャートで初登場首位を獲得しましたが、純然たる新曲は12月までありません。なお、ミュージックビデオは先週発表されています。

NiziUと櫻坂46の出場において、前者は適切、後者に若干の違和感というのが率直な私見ですが、櫻坂46は欅坂46時代の世論の評価も加味されているものと考えます。

 

ジャニーズ事務所所属歌手は7組、他の男性アイドルは全滅

SixTONESおよびSnow Manの選出は適切でしょう。デジタルで解禁されていない、YouTubeにアップされたミュージックビデオがショートバージョンという点は気になりますが、CDセールスはセカンドシングル以降も好調に推移しています。

ジャニーズ事務所所属歌手の作品で他に群を抜いてヒットしているのが嵐「カイト」およびKing & Prince「Mazy Night」。無論、他の出場歌手もCDセールスは初週20万前後を売り上げていますが、個人的にはDISH//「猫」のほうがよりヒットしていると考えています。「猫」はビルボードジャパンソングスチャートにおいて現段階までにオリジナルバージョンで8万ポイント以上、THE FIRST TAKE ver.で8万7千近いポイントを獲得しているのです。これは、シングルCDセールス加算2週目に急落する傾向が高いアイドルソングでは異質のロングヒットゆえの賜物であり、年間チャートでの上位進出も予想されます。

ビルボードジャパンソングスチャートは米ビルボードとは異なり様々なバージョンを合算しないため、ヒットが可視化されにくいという側面はあったでしょうが、それぞれのバージョン自体ヒットの水準に達していると言えるはず。DA PUMP三浦大知さんに大ヒットといえる曲が生まれなかったゆえ選外となったことはやむなしかもしれませんが、DISH//の活躍は男性アイドル曲で今年五本の指に入るだろうと考えるため、また曲提供したあいみょんさんが出演するならばその共演が叶わないという意味でも尚の事、DISH//の選外は強い疑問を覚えます。

 

④ オリジナルアルバムの大ヒットが考慮されていない可能性

期待を込めて”今のところ”と前置きしますが、米津玄師さんの名がありません。今年ドラマ主題歌の「感電」をヒットさせ、収録アルバム『STRAY SHEEP』がCDだけでもミリオンセールスを記録している状況にも関わらずです。

さらにはKing Gnuの落選も腑に落ちません。ビルボードジャパンの年間アルバムチャートで『CEREMONY』がトップ3に入るだろうことを踏まえれば、アルバムから「Teenager Forever」を披露して何ら差し支えないはずです。

紅白の人選からは、オリジナルアルバムが重要視されていない姿勢がみえてきます。昨年『瞬間的シックスセンス』がビルボードジャパン年間アルバムチャートでトップ10入りを果たし、ソングスチャートでもヒットを連発したあいみょんさんが選ばれなかったことも、その象徴と言えるでしょう。

他方、ベストアルバム関連ではJUJUさん、MISIAさん、鈴木雅之さん(企画盤の意味合いが強いですが)、BABYMETAL(12月23日リリース)、櫻坂46(欅坂46時代に)等がリリース。ベストアルバムのヒットも重要ですが、やはり【オリジナルアルバム<ベストアルバム】という姿勢が透けて見えるかのよう。個人的に、この姿勢は日本の音楽業界全体の問題だと考えており、ベストアルバムがサブスクの台頭(イコールプレイリストの充実)と共にヒットやリリースしにくくなる可能性を踏まえれば尚更です。

 

⑤ 年末年始リリース作品の宣伝の場になっていないかという懸念

先述したNiziUや櫻坂46のデビューシングル、BABYMETALのベストアルバムのみならず、復活出場となるMr.Children(12月2日発売『SOUNDTRACKS』)や連続出場の福山雅治さん(12月8日発売『AKIRA』)がオリジナルアルバムを12月にリリース。さらに元日には瑛人さんのファーストアルバム『すっからかん』が予定されていますが、尤もNiziU「Make you happy」や瑛人「香水」は大ヒット曲であり出場は自然なことと考えます。

紅白は2010年代に入り、おそらくはビルボードジャパンソングスチャートの採用および同チャートの認知度拡大、また大物歌手の相次ぐ登場により、出演することがイコール格好悪いという見方はほぼなくなったものと考えます。また中島みゆき地上の星」のオリコンシングルCDセールスランキング首位獲得等、出演後に(さらなる)ヒットを記録する作品が目立ちます。ならば出演しない理由はないというのが今の音楽業界におけるスタンダードな考え方だと捉えています。

とはいえさすがにリリースがなかったり、あったとしても十分なヒットに至れていない状況で、仮に年末年始リリース作品の宣伝という意味合いを強く持ち合わせて出場するならば強い違和感を覚える自分がいます。何かしらの実績があるに越したことはないでしょう。

 

AKB48落選…CDセールスのみ強い曲はヒット曲ではないという音楽業界の転換点

AKB48の紅白出場が途切れたことについては、紅白のみならず音楽業界にとってひとつの転換点と言えるでしょう。

今年はコロナ禍の影響でイベント等がままならなかったこともあってか、アイドル等CDセールスに長けた(もしくは頼った)歌手のリリースが滞ったのは事実。そんな中でAKB48が今年唯一リリースした「失恋、ありがとう」は3月30日付のビルボードジャパンソングスチャートで首位を記録。同週のCDセールスは1414077枚となり、今年最大の週間セールスを叩き出しています。

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とはいえ大事なのは、このヒットが持続しなかったという点。坂道グループでは乃木坂46が「しあわせの保護色」(4月6日付)で、日向坂46が「ソンナコトナイヨ」(3月2日付)で首位を獲得していますが、坂道グループとAKB48の動向を比較すると首位獲得前週の順位や首位獲得翌週の順位およびポイント前週比、そして首位獲得週における各構成指標のトップ10入り数に大きな差が出ていることが解ります。とりわけAKB48「失恋、ありがとう」は首位獲得週においてストリーミングおよび動画再生が100位はおろか300位以内にも入っていません。これら接触指標群はロングヒットの要となり、世間への認知度をより強く示すものと言えるわけで、この指標に弱い曲はCDセールスがいくら長けていたとしてもイコール大ヒットとは言えないと捉えられてもおかしくありません。

紅白はAKB48を落選に至らせたことで、”ミリオンセールスを獲得した曲が必ずしも大ヒットとは限らない”という姿勢を示したと言えます。この決断が、日本の音楽業界が売上絶対主義という考えを改める歴史的な転換点だと捉えるのは、決して大袈裟なことではないはずです。

 

BTS、TWICE…K-Popアクトの不出場

TWICEの落選はNiziUがその役割を担ったと捉えるのが自然なのかもしれませんが、しかし共演という手段もあったのではないかと。コロナ禍で日本に行きにくい状況ゆえ難しいのかもしれませんが。

そしてBTSについては、今年「Dynamite」が全世界のチャートを席巻。米ビルボードソングスチャートでも、(所有指標が強すぎたとはいえ)これまでにないロングヒットに至っています。 日本向けオリジナル作品をリリースしていること、「Dynamite」が日本でサブスク再生回数に基づくストリーミングを中心に大ヒットしたことを踏まえれば出場資格は十分だったと考えます。コロナ禍、さらにはスケジュールの都合等で打診したものの叶わなかったという状況かもしれませんが。

 

⑧ 2枠減の演歌・歌謡曲界が考えるべきこと

丘みどりさん、島津亜矢さんが落選し、演歌・歌謡曲歌手の枠は2枠純減。演歌・歌謡曲についてはビルボードジャパンソングスチャートでシングルCDセールス以外に長けた指標が見当たらず(ルックアップのCDセールスとの乖離も象徴的)、デジタルへの移行等様々な遅れにより広範囲の年代への拡大が進んでいない印象があります。

いや、演歌や歌謡曲業界的には中高年の取り込みが重要ゆえシングルCDセールス以外の指標を重視しなくても好いと業界内で捉えているのかもしれませんが、コロナ禍でイベント等が開催できない状況では演歌・歌謡曲業界も間違いなくその影響を受けているはず。この2枠減がコロナ禍の影響によるセールスの低下を踏まえた結果であるとするならば、シングルCDセールスに頼らないヒットを作ることは急務でしょう。

 

 

最後に、大前提の話とはなりますが。 

⑨ ”紅白”という分け方自体の違和感

そもそも論として紅組/白組という隔たりは必要なのかと思うところがあります。紅白というシステムがジェンダーへの認識に長けているとはいえない日本の象徴と考えるのは流石に大袈裟かもしれませんが、昨年のMISIAさんによる素晴らしいパフォーマンスが一石を投じながらもその意義がまったくと言っていいほどスタッフや上層部に浸透していない気がするのは気のせいでしょうか。

 

 

 

以上8+1のポイントを提示しましたが、如何でしょうか。

今後、新たな出演者発表が行われる可能性があり、そこにYOASOBIや米津玄師さん等の名が出てくることを願います。また今年はコロナ禍を踏まえた紅白となるわけで派手な演出等は難しいかもしれません。ならば、歌をきっちり魅せるという姿勢を大切にし、ワンコーラスやワンハーフではなく長尺で(特にヒットした曲はフルコーラスで)披露していただくよう、演出については願うところです。