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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

テイラー・スウィフト「Willow」がマライア・キャリーのクリスマスソングを抜いて12月26日付米ビルボードソングスチャートを制覇、理由は安価設定にあり

ビルボードソングスチャート、現地時間の12月21日月曜に発表された最新12月26日付ソングスチャート(Hot 100)。先週およそ1年ぶりに首位に返り咲いたマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」の連覇を阻んだのはテイラー・スウィフト「Willow」でした。

テイラー・スウィフト「Willow」とマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」、チャートを構成する指標毎に比べるとその勝敗の理由が解ります。

テイラー・スウィフト「Willow」

  ストリーミング 3000万(同指標4位)

  ダウンロード 59000(同指標1位)

  ラジオエアプレイ 1230万(同指標50位未満)

マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」

  ストリーミング 4050万(前週比29%アップ 同指標1位)

  ダウンロード 10000(前週比31%アップ 同指標6位)

  ラジオエアプレイ 3080万(前週比12%アップ 同指標17位)

つまり、「Willow」はダウンロードで逆転を果たしたのです。

 

実際、「Willow」は集計期間内に様々なリミックスや動画戦略を行ってきました。これらは以前ブログエントリーにまとめています。

しかし、ダウンロードについてはもっと凄いのです。

「Willow」のリリースは12月11日金曜であり、最新12月26日付米ビルボードソングスチャートにおける集計期間はストリーミングとダウンロードが17日木曜までの1週間(ラジオエアプレイは12月14~20日)。今回、テイラー・スウィフトのホームページでダウンロード可能な「Willow」各バージョンは、12月16日水曜夜から17日にかけての31時間限定で、単曲で48セント(0.48ドル)、インストゥルメンタルとの組み合わせで1.03ドルとかなり安価に設定されていたのです。

実際にダウンロードを高める手段として、通常1.29ドルもしくは0.99ドルで販売する曲を0.69ドルに安価設定することが有効です。たとえばBTS「Dynamite」はその安価設定により、ダウンロード指標をさらなる高みに押し上げることに成功しました。

しかしテイラー・スウィフトは「Willow」においてさらなる安値を設定し、それもチャート集計期間の終盤に行ったのですから、これはチャート対策以外の何物でもないだろうというのが私見です。

 

今回の記録について触れましょう。「Willow」の首位獲得により、テイラー・スウィフトはアルバム『Evermore』共々初登場での首位を達成。これは8月8日付で自身の『Folklore』と「Cardigan」がアルバム/ソングスチャートを制して以来となります。他にこの同時初登場首位を成し遂げたのはBTS(12月5日付における『BE』および「Life Goes On」)のみとなります。

テイラー・スウィフトは「Willow」が7曲目となる首位獲得曲に。そのうち「Shake It Off」(2014年9月6日付)、「Cardigan」(8月8日付)そして「Willow」の3曲が初登場での首位獲得となりました。初登場での首位獲得週数はアリアナ・グランデが最多の5曲を保持していますが、テイラーはジャスティン・ビーバーマライア・キャリー、ドレイク、トラヴィス・スコットに今回並びました。

テイラー・スウィフトは「Willow」で29曲目となるトップ10入りを達成。これはマライア・キャリーおよびスティーヴィー・ワンダーの28曲を抜き単独で歴代6位に浮上。最高はドレイクの42曲となり、以下マドンナ(38)、ザ・ビートルズ(34)、リアーナ(31)、マイケル・ジャクソン(30)と続きます。ちなみにテイラーは29曲中、初登場でのトップ10入りが19曲となり、こちらはドレイクの27曲に次ぐ歴代2位の記録です。

 

さて、2020年における首位獲得曲は実に20曲目。うち、初登場での首位獲得曲は今年12曲目となり、1995年および2018年の4曲を大きく上回りました。そのうち大半は、ダウンロードにおけるフィジカル施策に因るもの(フィジカル施策とは歌手のホームページにてCDやレコード、カセットテープを販売し、それらが発送されるのではなく購入された段階で売上にカウント。さらに到着までの間に楽しんでもらうべく用意されたデジタルダウンロードもカウントするという、いわば二重取りの方法。テイラー・スウィフト feat. ブレンドン・ユーリー「Me!」(2019)が最初に用いています)。この施策はチャート登場2週目の大幅ランクダウンをもたらし、首位という記録の形骸化が生まれたことから、米ビルボードがチャートポリシーを変更したことで今秋以降実質的に無効となりました。この形骸化は、「Cardigan」等が年間ソングスチャートで100位以内に入っていないことからも明らかなのですが、しかしフィジカル施策が無効になって以降もダウンロード指標の押し上げが未だ有効に作用することが証明された形です(ただし、「Willow」が安価施策を採ったにもかかわらず、ダウンロード指標は10万に大きく届かないのが現状なのですが)。なお、このダウンロード指標において、テイラー・スウィフトは21曲目の首位獲得を果たし、リアーナ(14)、ジャスティン・ビーバーおよびドレイク(12)との差をさらに拡げています。

 

クリスマスソングが大挙トップ10入りを果たす中で、トップ10に返り咲いたのがBTS「Dynamite」。前週から15ランクアップし9位に入ったその要因は上記”ホリデー・リミックス”の存在が大きいと言えます。

11日にリリースされたこのリミックスが大きく寄与し、ダウンロードは前週比227%アップの40000を獲得。一方でストリーミングは850万、前週比7%アップにとどまっています。

 

次週はクリスマスソングがピークに達することからテイラー・スウィフト「Willow」のダウンは必至といえます。「Cardigan」は登場2週目に8位となりトップ10内をキープできましたが、しかしダウンロード指標に頼った戦略はフィジカル施策の際に顕著だったようにチャートの急落を生んでしまうのです。先述したように、「Cardigan」が年間100位以内に入らず、また後にラジオエアプレイでトップ10入りを果たしたとしてもBTS「Dynamite」が年間38位と高くなかったのもその証明と言えます。「Willow」や「Dynamite」が次週以降チャートで急落したならば、首位獲得という称号の形骸化はフィジカル施策が実質的に無効になったとしても止まっていないことから、ダウンロード指標のウェイトを下げる等のチャートポリシー変更を求めたいところです。元の記事に私見を混ぜることは正しくないでしょうが、私見を記しておきます。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (初登場) テイラー・スウィフト「Willow」

2位 (1位) マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」

3位 (3位) ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」

4位 (5位) ボビー・ヘルムス「Jingle Bell Rock」

5位 (2位) 24Kゴールデン feat. イアン・ディオール「Mood」

6位 (14位) バール・アイヴス「A Holly Jolly Christmas」

7位 (6位) アンディ・ウィリアムス「It's The Most Wonderful Time Of The Year」

8位 (4位) アリアナ・グランデ「Positions」

9位 (24位) BTS「Dynamite」

10位 (10位) ホセ・フェリシアーノ「Feliz Navidad」

ラジオエアプレイを制したのは、24Kゴールデン feat. イアン・ディオール「Mood」(総合5位)。前週から2%ダウンするものの8360万を獲得し、同指標8週目の首位を獲得しています。

また、テイラー・スウィフトはアルバム『Evermore』から、フィジカル向けボーナストラックを除く15曲すべてを100位以内に送り込みました。

これにより、テイラー・スウィフトのソングスチャート(Hot 100)エントリーは128曲となり、ニッキー・ミナージュおよびフューチャーを抜いて4位に浮上。こちらでもドレイクが228曲と最も多く、以下グリー・キャスト(207)、リル・ウェイン(170)と続きます。

 

 

グローバルチャート速報も紹介。200を超える地域の主要デジタルプラットフォームによるストリーミングとデジタルダウンロードで構成され、歌手のホームページでの販売分を含まないグローバルチャート。12月26日付ではGlobal 200でマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」が連覇を達成、Global 200からアメリカの分を除いたGlobal Excl. U.S.ではリミックス効果でBTS「Dynamite」が通算6週目の首位を達成しました。

マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」はGlobal 200においてストリーミングが前週比6%アップの8370万、ダウンロードが同19%アップの21000を獲得。一方、Global Excl. U.S.では2位をキープしています。

Global Excl. U.S.を制したのはBTS「Dynamite」。こちらは米ソングスチャート紹介時にも触れた”Holiday Remix”の存在が大きく、ストリーミングは前週比10%アップの5910万、ダウンロードは同15%アップの17000を獲得しています。Global Excl. U.S.では前週、バッド・バニー & ジェイ・コルテス「Dákiti」が最長首位獲得週数でトップタイとなりましたが、再度「Dynamite」が引き離した形です。なお、「Dynamite」はGlobal 200で6位に入っています。

 

米ソングスチャートを制したテイラー・スウィフト「Willow」はGlobal 200で2位となり、ストリーミングは6790万、ダウンロードは41000を獲得していますが、一方のGlobal Excl. U.S.ではストリーミング3780万、ダウンロード10000となり5位に登場しています。

グローバルチャートは『200を超える地域の主要デジタルプラットフォームによるストリーミングとデジタルダウンロードで構成され、歌手のホームページでの販売分を含まない』と紹介しています。Global 200とGlobal Excl. U.S.の数値から、グローバルチャートにおける米分を算出するとストリーミングが3010万、ダウンロードが31000となり、テイラー・スウィフトの米における人気の大きさが解ると共に、ダウンロードの多さも見て取れます。そして、歌手のホームページでの販売を含む米ビルボードソングスチャートではグローバルの倍近いダウンロードを叩き出しており、歌手のホームページにおける販売施策が有効に作用していることもまた見えてくるのです。